←↑→ (21)モラルハザードの頻出
近年、企業のトップによる不正、企業ぐるみの不正が、様々な企業で指摘され
引責辞任するトップが相次いでいます。日本はまるでまるごとモラルハザード
に陥っているかのようです。このような状況については大きくいって下記の
2つの説があります。

 (1)この手の不正は昔からあったが以前は告発する人がなかった
 (2)いわゆる大企業病により、考え無しの経営者が増えた

このふたつはちょうど逆の考え方のようであって、実は同じ流れの中にあると
もいえます。それはある意味で企業経営の驕りと誤りなのでしょう。

昭和30年代40年代頃にも多数の不正の告発はありましたが、確かに現在に比べ
ればその数はかなり少なかったのではないかと思われます。そこには社員の
会社に対する忠誠心のようなものがあり、少々の不正には目を瞑ってきたとい
う面があります。その忠誠心が薄れてきたのは、何といっても社員が大事にし
てもらえなくなってきたことと関連しています。

昭和40年代頃までの日本は「終身雇用制」ともいわれ、ひとつの会社に20歳
前後で入ったら60歳で定年になるまで働き続けることが多くの場合保証されて
いました。会社を渡り歩く人たちはどちらかというと軽蔑されていた時代です。
しかし昭和50年代頃から「窓際族」が社会問題化してきて、構造不況による
特定業種での大量解雇が相次ぎ、それを乗り切った業種でも昭和60年代頃から
は激しいリストラが行われるようになり、また給与体系でもそれまでの年功
序列型は崩壊し、成果主義の体系が主流になってきました。特に割りを食った
のが現在の50代くらいの人たちで、彼らは一所懸命会社のために働いていた
若い頃は「その内年齢とともに給料は増えるから」といわれて給料を低く抑え
られ、さあいよいよまともなお金を貰えるようになるかと思っていたら今度は
成果主義だといわれて「たくさん売上をあげている若い人にたくさん給料払う
から」といわれて、給料をどんどんカットされてしまいました。

また戦後昭和20〜40年代頃までの経営者は戦後の厳しい時代を生き抜いてきた
苦労人の経営者が多かったため、カリスマ性もあり、その人の指揮にみんなが
従ったものです。しかしそれ以降の経営者には、しっかりした定見やビジョン
が無く、また若い頃に会社に入って以来、会社という庇護の元でだけ仕事をし
てきた「温室育ち」のサラリーマン社長も多く、彼らはしばしば会社を迷走さ
せ、社員達に愛想を尽かされて来ました。

内部告発が増えた背景には、なんといってもこのような事情があります。

要するに忠誠心を持てるような会社が少なくなってしまったのです。

また「どうせばれるに決まっている嘘」をついてしまい、後で大きな批判を
受けることになったりするのが相次いでいるのも「最後まで突き通せる嘘」と
「そうはいかない嘘」の区別が付いていないからでしょう。

戦後苦労型の経営者も、ある時は大嘘をついて、物事を誤魔化したこともきっ
とあったはずですが、その時の覚悟の量が半端ではなく、絶対最後まで誤魔化
し通すという自信と決意と実行力の元でやっていたと思われます。しかし最近
の経営者は甘い見通しと貧弱な手腕で、単なる逃げにすぎない嘘をつくので、
簡単にバレてしまい、またそのことにより更に社員から愛想を尽かされるのです。

ここで少し注目したいのはアメリカで1980年代頃以降多くなったMBAの資格を
持った経営者です。MBAというのはアメリカの経営学修士の資格で、彼らは
大学院において経営に関するノウハウを徹底的に叩き込まれ、様々なクリティ
カルなシチュエーションで「君ならこういう時どう判断するか」という決断
能力を鍛えられるシミュレーションの訓練を受けています。

日本でも特に若い企業の経営グループの中にはアメリカでこの資格を取って
きた人が参加していることがあり、また日本でもMBA的な訓練を積ませる学科
を開設している大学もあります。

このMBA型の経営者はいわば経営のプロで、温室育ちのサラリーマン社長より
は随分じょうずに、会社を運営することができます。ただ彼らはあくまで
会社の運営をするだけで、いわば船でいえば船長のようなもの。しかし船が
どこに行くのかを決めているのは船主で、この船主に相当する、スーパー
バイザーがいない状態でMBA型の経営者を社長に据えても、会社は迷走せざる
を得ません。

要するに会社で最も重要なのは「何がしたいのか」という目的意識であり、
それが明確な会社は社員のモラール(morale,意欲)も高く、結果的にモラル
(moral,道徳)も高くなるのです。そして社員のモラルが高ければ、経営者も
よほどのことがない限りズルなどはできない雰囲気になり、会社も健全な
状態に保たれます。

戦後大成長した、ソニー・ホンダ・松下・シャープなどといった企業には
そういう「何かをしたい」という意志が(少なくとも昭和50年代頃までは)
強く感じられていました。

(2004-04-04)

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