←↑→ (22)新札発行に向けて

日本では来月2004年11月に新しいお札が発行されます。1984年にお札のライン
ナップが、聖徳太子(1万,5千)・伊藤博文(千)・岩倉具視(5百)・板垣退助(百)
といった政治家の顔から福沢諭吉(万)・新渡戸稲造(5千)・夏目漱石(千)とい
った文化人シリーズに変わってから20年ぶりの大改訂。福沢諭吉はそのままで
すが(デザインのみ変更)、五千円冊が樋口一葉、千円札が野口英世に変わります。

特に樋口一葉は「日本銀行券」としては初めて本格的に採用された女性という
ことになります。2000円札に紫式部が描かれていましたが副次的な扱いであり
戦前に神功皇后のお札がありましたが、これは日本銀行券ではなかったので、
樋口一葉を女性の紙幣肖像採用第一号とみなす人は多いようです。

さてこの新札発行に絡んで、外国では嘘のような噂が流れています。日本が
この新札発行と同時に、昭和21年2月25日に行ったような「新円切替」を実行
するのではないかという噂です。

昭和21年2月25日に行われた事というのは、その時点で流通している5円(現在の
価値で約1000円)以上の紙幣についていきなり全て無効を宣言したもので、旧紙幣
は全部銀行に預けた上で、その預金口座からはひとり100円までしか新紙幣で引き
出せない、というものでした。要するに国民の財産を1ヶ月分の食費程度を除いて
リセットしてしまったわけで(まさにカタストロフィー)、このため今回の場合は、
新札切替えに無関係の二千円札で持っていれば安全だなどという、また訳の分から
ない噂まで流れています。

こんなバカみたいな噂をわざわざ取り上げて「政府や日銀は否定している」としか
論評しなかった国内の新聞社もありますが、新聞社ともあろうものが、わざわざ
不安の残るような書き方をしてどうする?というところです。昭和21年の日本は
敗戦国であり、凄まじいインフレを抑えるため、なりふり構っていられなかった
のですが、現在では世界第二の経済大国となり、日本の紙幣は海外でも充分流通し
日本国債なども世界中の国で買われています。その中で、日本の信用を地に落とし
それどころが全世界の経済を混乱させるようなことは絶対にできません。

さてこのように紙幣が切り替えられる最大の理由は「偽造防止」のために新技術
の投入です。今回の新しい紙幣では日銀では、まず偽造は不可能、などと一応
公的に主張していますが、恐らく新札が発行されて数日の内にはアジアのどこか
で偽札が登場することは間違いないでしょう。ただ、それでも偽札を作る人達は
今までより、かなり苦労することになるはずです。

最近日本道路公団では、偽造のハイカ(ハイウェイカード)対策に頭を痛めてい
ます。あまりにひどいので、高額のハイカを廃止したのですが、それでも日々
相当の偽造ハイカが使用されており、公団がETC(車に積んだ決済用の端末と
の間の通信で料金を払う仕組み)を推進しているのは、ひとつはETCは車を
料金所で停止させる必要がないことから渋滞の解消になるということと、もう
ひとつはやはり偽造ハイカ対策なのです。

テレホンカードなども高額のものが廃止されたのは同じ理由で、テレカの場合は
現在偽造がほとんど不可能なICカードタイプに切り替えられていっていますが
現実問題として、ICカード化を進めない限り、現行のハイカや旧型テレカの
ような磁気カード型のカードでは、偽造は防止することができません。

(偽造の実際の手法については公序良俗上、ここでの説明を割愛します)

こう簡単に偽造されてしまうのは、テレカなどの磁気カードや、銀行のキャッシュ
カードのような磁気ストライプ付きカードが、情報量がわずか数十文字と極めて
小さいので簡単に解析されてしまうからです。これが現在普及しつつあるEdyや
SuicaなどのICカードであれば、情報量が非常に大きいので、その解読は事実上
不可能に近いものとなります。

さてこのシリーズの途中で、昨年末頃にキャッシュレス社会の到来について書いた
のですが、あれからかなりまた事情が進展してきています。

東京スター銀行がこの春から日本初のマスターデビットを発行し、クレジット
カードを持ちたくない人や持てない人でも、キャッシュレス決済ができるように
なりました。昨年秋から募集を停止していたセゾンのVISAチェックカードも
先月からシステムの改善と共に再開されました。

また今まで上場会社の株券は各自が手元に保管しておいても良かったのですが、
今後は全て電子化して信頼できる保管機関で預かることになり、特に今年中に
この移管をする場合は証券会社の「特定口座」に受け入れることが可能なので、
証券各社では「タンス株券」の回収のための大キャンペーンをしています。

また巷ではソニーのFelica(非接触型ICカード)の技術を使用して、JR東日本の
Suica,ビットワレット社のEdy などといった「お財布」(繰り返し利用可能な
プリペイドカード)システムが動き出しています。

このようなデビットカードシステムや、「お財布」システムの登場、そして
株式の電子化も、キャッシュレス社会・電子マネー社会の本格的到来を示して
いるのでしょう。

前回「キャッシュレス社会の到来」といわれた1980年代に、その主役はクレ
ジットカードでしたので、それがバブルを引き起こしてしまったのですが、
デビットカードやICプリペイドカードは、そのような「自己管理不足による
使いすぎ」の心配が無いので、より安全な経済発展に寄与するものと思われます。

また東京スター銀行のStarOne口座、新生銀行のPowerFlex口座、スルガ銀行SB
支店の口座、などは全国の提携金融機関・コンビニATMで18時以降や休日でも
時間外手数料無しでお金を引き出すことができます。こういう口座は結果的に、
地元の銀行に口座を持っているのよりかえって使いやすいということになります。

本当は各地域に根ざした銀行の口座こそがこのような財布的な役割を果たすべき
だったのでしょうが、現在はむしろ大きなシステムを持ち全国的に営業している
金融機関や、金融機関とは別の所が立ち上げたEdyなどがその役割を果たすよう
になってきつつあります。

ただ、全国的に営業しているとはいっても、東京スターとスルガは元々東京や静岡
の地域金融機関でその地域にしか支店はありませんし、新生銀行は大都市にしか
支店がありません。この3行が全国津々浦々から預金者を集めているのはネット
取引のシステムが強力で、しかも無料で利用できるからです。地域金融機関の
中にはネットでは極めて貧弱なことしかできない上に、月々ネット取引の使用料
まで取る所も随分多いです。

今まさに日本の金融システムは大きな波の中にあります。

ただひとつ言えることは今急速に利用者を増やしている金融機関(銀行や証券会社)
は、みんなが待ち望んでいたようなことをしているだけだということです。それが
できない体制にあったので、その社内改革に苦労した、といったことを、大不祥事
を起こして潰れた銀行を見事蘇らせた、東京スター銀行の頭取、タッド・バッジ氏
などは著書の中で述べています。

会社や役所の論理ではなく利用者の論理を優先させることが全ての鍵です。

数学で「カタストロフィー」というのは不連続な変化のことです。過去の延長で
だけ判断しようとすると、予測を誤ることがこの世にはあり、それを扱う分野が
カタストロフィー論です。

「窮鼠猫を噛む」などはまさにカタストロフィーの好例。強い圧力を掛けていれ
ば相手はおとなしくなるだろうと思ったら、あまり強くやりすぎると相手はぶち
切れて逆襲してくるわけです。プレートの沈み込む場所で起きる地震のメカニズム
なども同様のカタストロフィーです。現在日本の経済に起きつつあるカタストロ
フィーはこのプレートの歪みの反発による解消に近いものでしょう。

今激動の中で、まさにカタストロフィーを通過しようとしている経済の中で、
日銀や金融庁などがどういう役割を果たして行かなければならないのか、また
企業の資金運用はどうなっていくのか、そして銀行などの金融機関はどうやれば
生き延びて行けるのか。

少なくとも1995年頃までのビジネスモデルしか頭に無い人たちにはどうにも
処理できない世界に入ってきているのでしょう。


(2004-10-05)

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