●ゲシュタルト心理学 (Gestalt psychology)
ゲシュタルトというのは「形態」という意味です。例えばケーキというも
のは、ケーキとしての姿をしていることで意味があるのであり、それを
「要素」に分解して、小麦粉・卵・砂糖・洋酒・生クリームなどに分解し
たところで、ケーキのおいしさを理解することはできません。
ゲシュタルト心理学というのは、このような思想を背景に、ヴントが考え
た「心の構成要素への分解」という考え方を否定し、全体的な心の作用を
解き明かそうとしたものです。
この考え方は M.Werthemer(1880-1943)から出てきました。
●行動主義 behavorism
行動主義をはじめたのは J.B.Watson(1878-1958)です。彼はヴントが開発
した内省法を批判し、心理学が科学的であるためには、やはり客観的に
観察可能な行動のみを考察の対象とすべきである、と考えました。
彼においては「恐怖」などといったものは被験者が漠然と感じているだけ
では意味が無く、その恐怖により表情が変わったり、逃げようとするなど
といった外から見てはっきり分かる行動をしたところを問題とすべきだと
しました。
しかしワトソンのやり方では実際問題として心の詳細な探求は不可能です。
そのため、これを修正する考え方を取る人が何人か出ており、例えば心の
内部の動きを媒介変数の導入により表現しようとしたり、ゲシュタルト
心理学の手法を取り入れたり、しています。この流れを新行動主義(neo-
behavorism)といいます。
アメリカではこの行動主義の流れを汲む研究者が多いようです。
●精神分析 Psycho-Analysis
精神分析は精神医学の治療の現場から生まれた、それまでの心理学とは
根本的手法を異にする、新しい心理学です。
これを確立したのはご存じフロイト(Sigmund Freud, 1856-1939)です。
彼に先行する研究としてブロイエル(Joseph Breuer,1842-1925)の活動が
あり、フロイトは初め、このブロイエルと一緒に研究をしていました。
ブロイエルは精神を病んだ患者の治療に催眠術の活用を考案しました。
この手法は患者に催眠術を掛けて、本人が表面的には忘れてしまっている
ことを明かにすることにより、病気の原因を突き止め、そこから治療を
しようというものでした。
精神分析というのは、他の心理学が人間の心に対する哲学的興味から出発 したのに対して、現実に患者を治さなければならないという現実的な必要 性から出発しています。
しかしフロイトはある時点でこの催眠術による治療法を断念、ブロイエル と袂を分かちます。彼は催眠術でいくら病気の原因を突き止めても、その 問題を患者本人が認識してくれない限り、治療にはつながらないという 問題にぶち当たったのです。
そこで彼が催眠術の代わりに取り入れたのが連想法です。これは何かの 単語を患者に聞かせ、それから連想する言葉を言わせるものです。また、 その時の反応速度も測っておきます。
この連想法において、あまり常識的でない言葉が出てくる場合、そこに 患者の心の病の原因が眠っている場合があります。また、反応時間が他に 比べて極端に遅かった場合、その言葉を出すまでになにかの葛藤があった ことが伺われます。
またフロイトはこれと同時に夢も治療に取り入れました。夢を見ている時 の人間というのは普段起きている時には意識の裏に隠れている心の作用が 活発に活動していると考え(これを「無意識」と名付けた)この夢の分析 から病気の原因に迫ろうとしました。彼はこの手法で神経症患者の治療に 大きな実績をあげます。
フロイトがこのような研究を発表した時、スイスで同様のことを考えて、 やはり似たような治療方法を開発しつつあった若い医師がいました。それ がユング(Carl Gustav Jung, 1875-1961)で、彼はすぐにフロイトと連絡を 取り、二人は意気投合して、一緒に研究をするようになります。
しかしある時、大西洋航路の船の中で二人は激突。それを機会にユングは
フロイトから離れて独自の道を歩み始めました。
ユングはフロイトとは微妙に違う連想法や夢分析の手法を用いて、その
無意識の中に潜む、色々な心の作用を明らかにしていきます。この流れを
分析心理学(Analytic Psychology)と呼び、オリジナルの精神分析学とは
区別されています。
この精神分析・分析心理学の流れはアメリカではアメリカ人の合理主義的
発想に合わずに、ほぼ滅亡状態にあるようですが、ヨーロッパや日本では
根強く生き続けています。