一言主神

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一言主神
一言主神 ひとことぬしのかみ
奈良県御所市森脇の一言主神社

一言主神に関する記述は、古事記・日本書紀の神代にはありません。

初見は、雄略天皇4年で、雄略天皇が葛城山に狩りをしに行ったとき、自分たちの一行とそっくりの一行に出くわします。その時、雄略天皇が名を問うと

『吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり』

とおっしゃいました。

そこで、古事記によると天皇は恐れ入り、自分たちの着ていた服を全部差し上げて、拝礼したといいます。

これが日本書紀の場合は天皇と一言主神はいっしょに狩りをして楽しんだということになっています。

そして、なんとこれが続日本紀巻25になると、この時一言主神は天皇と獲物を争ったため、天皇の怒りに触れて、土佐に流されてしまった、と書かれています。

古事記(712)・日本書紀(720)・続日本紀(797)と時代がたつにつれ、この一言主神を祭っていた賀茂系一族の地位が著しく低下したのでしょう。

更にはもっとひどい話もあります。

これはもう少し時代が下がって日本霊異記(822)になると、この一言主神が役行者(えんのぎょうじゃ,この人も賀茂系の人)に使役され、不満を持ったため、役行者が天皇を陥れようとしていると讒言。このため、役行者は伊豆(!よりによって!!)に流されたというのである。

とんでもないことになってきた訳ですが、元々はこの神は事代主神と同様に託宣を司る神と考えられます。

その出自や実体は謎に包まれていますが、一部の文献には、素戔嗚神の子であると書かれているようです。今根拠を調査中です。しばらくお待ち下さい。

また、この神に関する重要なヒントは、この一言主神が流された先である土佐神社に伝わる話にあります。それはこの神が味鋤高彦根神(加茂大神)と同じ神ではないか、というものです。

土佐神社では現在、味鋤高彦根神と一言主神の両方をお祭りしています。


以下はniftyの会議室に1996/04/18 04:26のタイムスタンプで書いた物です。

今は三輪の大物主神について見たのですが、葛城の一言主神でも似たような事情が見られます。

一言主神はもっと新しい時代の神で雄略天皇の時代になって名前が出て来ます。雄略天皇は応神から武烈に至る系図の中で中興の祖になる天皇で、このカリスマ性の高い天皇に多くの豪族が付き従ったのですが、この天皇が大勢の部下を引き連れて山に狩りに入った時、自分たちとそっくりの一行に出食わしました。「この国に自分以外に大王はいないはずだが、お前たちは何者だ」と問うと、向こうも同じことを言い返します。怒った天皇が部下たちに弓矢をつがえさせますと向こうも弓矢の準備をしました。

そこで天皇が「まず名を名乗ろうではないか。それから弓矢を交えても遅くはないであろう」と言いますと、向こうは「もっともである。私が先に聞かれたから先に名乗ろう。私はこの山の神で良いことも悪いことも一言で語る一言主神である。」と言いました。ここで天皇は畏まって「神様とは知らず失礼しました。このように現実に顕われて下さるとは思いませんでした」と言い、自分たちの武器や衣服を献上して引き上げることにしました。一言主神の一行もそれを感謝して受け取り、天皇の一行を送ってくれました。

これは古事記・日本書紀ともに出てくる話ですが、ここでは一言主神が天皇と同格の存在として描かれています。ほとんど神に近い存在であった雄略だからこそ語られた話であり、この話における一言主はまさに神でした。ところがこれが奈良時代になりますと話が変って来ます。

大峰で修行をしていた役行者(えんのぎょうじゃ)は多くの精霊たちをその法力によって支配していましたが、葛城の一言主神さえも雑事にこき使われていました。ある時役行者は大峰と葛城との間に橋をかけようとします。そうするとますます自分の領域を荒らされてしまうと思った一言主神は天皇に役行者が謀反を企てていると讒言。この為役行者は捕らわれて伊豆に流されてしまいます。

これは日本霊異記・今昔物語・三宝絵詞などに見られる話です。ここでは一言主神は随分格好悪い役所を演じさせられています。それどころか同時期に成立した続日本紀では、一言主神は雄略天皇の時代に天皇に捕らえられ土佐の国に流されたと書いてあります。全く散々な扱いです。

この他、資料を確認できなかったのですが、どこかの風土記にはその地方で神が荒れていたため、天皇の遣いがやってきて、大人しくさせたという話が載っています。一般に時代が後になるほど、神は人に従属する存在に変って行ってしまっているようです。そして神仏習合の過程の中で、垂迹説などが出てきて、神様は仏が仮の姿として現れたものだ、などとまでされてしまいます。

そのどんどん失墜していった神の地位を再び引き上げ、日本人の魂の探求を始めたのは伊勢神道・吉田神道などの理論神道の人たち、そして江戸時代以降の国学や復古神道の人たちでした。



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